阿部耕也の紅茶日記
『小さなティールームを開こうよ』その10
今日の話には温泉旅館が登場します。
2002年の6月のある日の夕方、土曜日で業務部は休みの日でした。たまたま私は貯まっている仕事を抱えて事務所にいました。そこへ年齢が30歳後半と思われる一人の男性が訪ねて来ました。彼は「ホテル佐勘の幕田です。」と名乗り「紅茶の話を伺いたい」と切り出しました。私は即座に「旅館に私共の紅茶が役立つとは思いませんよ。う~ん、お取引の話は進まないでしょう。それでよろしければ紅茶の話でしたらお聞かせしますので、どうぞ」と招き入れました。その日から彼と私との勉強会が始まりました。週2回程マンツーマンで講義し、毎回終わりには課題を出して彼にはレポートを提出してもらいました。そして、また次に進むというやり方で勉強を進めていきました。気が付くと4ヶ月も過ぎていました。幕田君は私の講義を丸覚えすることなく納得するまで図書館で調べたり、様々な紅茶を買い求めて試したりしていました。私の講義を受講された方の中でも熱心さは飛び抜けていました。
結局私は彼の真面目さに負けて、仙台の奥座敷、秋保温泉の有名老舗旅館で新茶の紅茶を提供する大企画を幕田君と二人で実行する事にしました。
まず、温泉と紅茶をどう組み合わせるかを考え・・というより温泉と紅茶の共通点である『リラックス』をどう表現するかに頭を悩めました。そして、ついに2002年12月に全てが完成し発表されたのが『おかみの紅茶』でした。私がこのネーミングを考え出し、佐勘さんと共同で商標登録を出願し、2004年6月に登録が完了。『おかみの紅茶』がひとつの企画として成立しました。
「体は温泉に任せ、心は紅茶に任せる」という考えの基、ご提供する紅茶を一杯一杯丁寧に点てています。珈琲はメニューから消えましたが、ティールームの売上が前年の倍以上になりました。この様な大きな企画も人との出会いがあってのことです。単なるお金儲けの手段では頭が錆びて良い考えが浮かびません。
「良い仕事、楽しい仕事をするためならどんな努力も出来る」を幕田君との合い言葉にして真剣に取り組みました。
小さいティールームも大きいティールームもお客様に喜んでいただき、時の過ぎるのを忘れてリラックスして頂ける事が一番の目的と私は常日頃心に留めています。
秋保温泉 ホテル佐勘ホームページ http://www.sakan-net.co.jp/