阿部耕也の紅茶日記
第1回「ラブリーなティーハウス」
相変わらず慌ただしい日々を送っております。8月中旬の台風の時は岡山と広島を往復しようとしたのですが、新幹線が暴風雨で止まってしまい、広島から岡山まで5時間30分かけて戻り着きました。元々『雨男』という有り難くない名前をもらっているのですが、台風まで背負っていたとは、本人も参ってしまいました。
こんな事が言い訳にはならないのですが、紅茶日記は相変わらず先に進んでおりません。
そこでこんな私に力をかしてくれる強い身方を皆様に紹介する事にいたします。
『平中直美さん』です。彼女は阿部耕也紅茶研究所の愛弟子で熱心に紅茶を学び、深い理解をしている方です。何事もとことん納得するまで掘り下げないと心が満足しないタイプのようです。紅茶はもちろん日に何杯も飲み研究を続け、紅茶に合うサンドイッチのレシピを50種以上持っていますし、今はスコーンに取り組んでいて材料の配合を少しずつ変えてそれぞれのお茶に合うスコーンを探し続けています。その平中さんがご家族の理解あるサポートを受けて、『TEA』を極めるべくイギリスに1ヶ月単身乗り込んで来ました。これからしばらく『平中直美さん』のイギリスティーハウス巡り奮闘記と紅茶事情など沢山の話題で、この紅茶日記を賑わせていただこうと思います。
第1回「ラブリーなティーハウス」
娘の名前は「心菜(ここな)」と言います。4月から保育園に通う3歳児です。その可愛いい娘を主人と隣人と保育園に預けて、彼の盆休みに絡めた1ヶ月の間を英国でホームステイしてきました。目的は「TEA」に触れる、です。そんな英国紅茶体験記の第1回目は私の胸に残るティールームのお話からに致しましょう。
お外での「TEA」です。
ロンドンにももちろん「紅茶」はありますが、「Cafe」ばかりが目立ってその主役はと言えば、コーヒーです。でもロンドンの郊外や地方には「TEA HOUSE」「TEA ROOM」「TEA SHOP」など、「TEA」という文字が名前に付くお店が健在です。
そこには英国のエッセンスがギュッと詰まっていました。「茶」という日本語訳では表現しきれない「TEA」の響きは、長きに亘って積み重ね、受け継がれてきたという歴史があって、それらに対する英国人の懐古と郷愁をも含んでいるように思えるのです。
中でも私がとても好きになってしまったのは「シャーロッツティーハウス」。それはイギリスの南西部コーンウォール地方、トゥルロという大きな港町にあります。コーンウォール地方といえばクロッテッドクリームの産地として有名です。スコーン修行中の身としては、その女房役のクロッテッドクリームの産地を訪ねることに使命感すら覚えての旅でした。
8月7日、英国らしく30分遅れの10時30分にパディントン駅を出発して、到着はすでに15時20分になっていました。街の中心部にあるこの建物は1848年に建てられたものだそうで外観、内装とも趣きがあります。とても「ラブリー!」です。
※英国人は好ましいことの多くを「ラブリー!」と表現するようです。
予約に遅れた私に対して、ビクトリア調の「ラブリー!」なコスチュームの店員は、親しみ深く迎え入れ給仕してくれました。窓辺のテーブルが私のために確保されていました。差し込む日差しは温暖なこの地方に似つかわしい強いもので、私は逃れようと体を反らしたり、ねじったりしながらもカテドラルも見えるこの窓辺の席で、まったりとこの店の空気に沈み込みました。
ここでのおすすめは「シャーロッツ・ハイティー」で、それはサンドイッチとケーキかスコーンが選べるセットです。私はサンドイッチをフレッシュサーモンとアボカドにして、スコーンを選択しました。これがまた「ラブリー!」なのです。ペッコペコおなかに嬉しいボリューム、この街に来た甲斐のある風土食はフレッシュでリッチ、しかもチープです。
とても有名なティーハウスなのでロンドンからこんなに離れて来たのに、やっぱり観光客が多いようでした。でも馴染みの客らしい老夫婦もいて、ウェイトレスとのやりとりがこれまた「ラブリー!」です。「あなた今日ツイてるわ。このケーキはこれでおしまい。カットする程残らないから切らずに持ってきたわよ」とおじいちゃまにサービス大のケーキを運んで来ました。おばあちゃまはバタフライケーキで、それはカップケーキの中にジャムを詰め込んで、切り落としたケーキは蝶々のように差し込まれたもの、大きくて嬉しそうなおじいちゃまを羨ましそうに、でも親しさが溢れたおしゃべりが続くのでした。
この空間には英国人の気質の長所が、生き生きと佇んでいました。私がラブリーと感じたのも短所がないという完璧さではなく、長所が生き生きと溢れている様がいい感じと寛げていたのでしょう。
さてと。秋サケで、あの時のサンドイッチをアレンジしてみよう。今回の旅を日本で応援してくれたラブリーサンキューな人々への、いいお土産になるに違いないもの。