阿部耕也の紅茶日記
「プディングクラブ」
プディングクラブは、伝統的な英国のプディングの衰退を防ぐために、1985年にスリーウェイズハウスにおいて発足されました。プディングクラブの会合は通常、金曜日の夜7時半から歓迎ドリンクによって始まり、控えめな食事の後に7種類のプディングを(お馴染みのものから季節的なものまで)たっぷり味わうこが出来る催しです。今回特別な配慮をいただき、プディング作りのデモンストレーションと、日本人向け「ミニプディングクラブ」に参加して来ました。
デモンストレーションは「サマープディング」と「チョコレートプディング」でした。「サマープディング」は大きなボールに食パンを敷き詰め、その中に砂糖で軽く煮てジュースを引き出した様々なたっぷりのベリー類を入れて、食パンで蓋をし、冷蔵庫で一晩寝かしたひんやり甘酸っぱいデザートです。たっぷりのホイップクリームでいただきます。「チョコレートプディング」はチョコレートパウンドの生地をじっくり蒸したものと思って下さい。温かい状態で仕上げにチョコレートソースをかけていただきます。
「ミニプディングクラブ」では4種類のプディングを堪能しました。(本来のクラブ規則では全て食べてから次のプディングが出てくるらしく、ギブアップをすると途中リタイアとなってしまいます)上述の2種類に加えホットプディングが2種、ジンジャーのプディングとスティッキー・トフィー・プディング出てきました。たっぷりの甘くないカスタードソースをかけていただきます。
これら以外にも数限りない様々なプディングが存在します。実際に食べたものに、伝統的なイングリッシュブレックファーストにつきものである「ブラックプディング」があります。これはお菓子ではなくソーセージのようなもので、真黒でこれもまた様々だという話ですが、スリーウェイズハウスのそれはレバーの味もあり、スパイスがよく効いて、香ばしく比較的食べやすいものでした。
またロンドンのパブでは「トリークルプディング」を食べました。「エール」というあまり冷えていない上面発酵のビールやシードルなどで、ローストビーフとヨークシャープディング、フィッシュアンドチップス、キドニーパイなどの伝統的なイギリス料理を楽しんだ後のデザートに、ポットの紅茶と共に注文しました。その夜をご一緒した英国在住の日本人ご夫妻に聞いたところですが、奥様がよく「ルバーブプディング」を作られるとのこと。ご主人は「すごくおいしい」とのろけられました。
マナーハウスに宿泊した時はコースディナーの最後にアイスクリームが乗った「ブレッドアンドバタープディング」が出てきました。ここのものは上品な仕立てだと感想をおっしゃる人がおりましたが、洋酒が効いたレーズンがぎっしり詰まっておりました。
さて話をデモンストレーションに戻しますと、「サマープディング」は、余った食パンとたくさん採れるベリー類をうまく使ってデザートが作れないかと発想したところから生まれたと説明されました。イギリスでは日本と違っていっぺんにベリー類の収穫期を迎えると聞きます。ジャムなどの保存食を作っても余りあったのかもしれません。この日は残念ながら冷凍を使いましたが。
日本に戻り、さっそく材料が揃いやすいこともあり、チョコレートのプディングを作ってみました。練ったマーガリンにブラウンシュガーを加えて、卵を割り入れてヘラで混ぜます。そこにセルフレイジングフラワーとココアを加え滑らかになるまで混ぜ合わせたら、油を塗ったボールにチョコレートソースを流し、その上に生地を流し入れて1時間半ほどゆっくりと蒸します。その日は娘にせがまれて夕食にステーキを約束していました。付け合わせの野菜のサトイモ、ジャガイモ、ブロッコリーを同時に蒸してしまいました。労せず手間をかけたディナーはとてもおいしくて、話も弾みました。
だいぶ寒くなってきたイギリスを体験して感じることですが、温かいドリンクや食事で健康維持を図る必要のある季節に、紅茶と温かいプディングは理屈抜きに欲しくなる家庭の味なのかもしれないということでした。
平中直美 記